すでに導入されている小学校も多いのですが、来年度から、すべての小学校で「英語」の授業が導入されることになります。これまでの経緯や新しい学習指導要領などを少し確認してみました。
まず、「小学校の英語教育は必要か」と問いかけていたのが、サンケイニュースの【日本の議論】(2009.5.24)でした。
http://sankei.jp.msn.com/life/education/090524/edc0905241800000-n1.htm
これまでの文法中心の英語教育ではなく、小学生時から英語になじむことでコミュニケーション能力を高めようという狙いだが、「週1時間の授業で役に立つのか」「日本語もままならない段階なのに…」と反対意見も依然として根強い。
「脱ゆとり教育」に舵が切り替わり、授業時間数が増える中で新たに英語が加わることが教師にとっても負担になっているという声もある。週1時間ほどの授業で、子供たちは英語を使いこなせるようになるのだろうか。
誤解のないように確認しておくと、小学校で導入される英語の授業は、5・6年生は必修なのですが、「教科」ではないので、通知簿で評価されるわけではありません。あくまで、「小学生時から英語になじむことでコミュニケーション能力を高めようという狙い」ということ・・・、だそうです。
文部科学省「小学校学習指導要領解説(外国語活動編)」(平成20年8月)によると、次のように書かれていました。
まず、「英語の授業」の「目標の要点」は・・・?
外国語活動の目標については,次のようにした。
- 外国語活動の目標をコミュニケーション能力の素地を養うこととし,中学校との連携を図った。
- 外国語を用いて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成に重点を置いた。
- 外国語活動の目標については,学年ごとに示すのではなく,より弾力的な指導ができるよう,2学年間を通した目標とした。
次に、「英語の授業」の「内容の要点」は・・・?
内容については,外国語活動の目標を受けて次のようにした。
- 外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図るための内容と,日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深めるための内容との二つとした。
- 目標にある「外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませ」ることは,日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深めさせる内容の中に含めた。
ところで、実際の「授業内容」や担当「教師」は・・・? というと、前述のサンケイニュースには、次のように書かれていました。
今回の制度では授業の計画を立てるのは、学級担任や英語専任の教員で、実際の授業は、市町村教委が学校に派遣するネーティブスピーカーの外国語指導助手(ALT)らを活用する。
しかし、英語専任教員を配置していない教育委員会も多く、ALTも全国で約4000人。文科省の19年度調査では、6年生の英語教育で指導に当たっているのは94・0%が学級担任だった。「クラスの学力レベルなどを一番把握しているのは、やはり学級担任。最後は、どうしても担任の先生に頼らざるを得ない」と文科省担当者。
それでは、小学校教員のうち、どれだけの先生が英語授業の経験を持っているのだろうか。
「全国に約40万人いる小学校教諭で英語の教員免許を持っているのは、わずか3%。ほとんどの先生は英語の授業についての経験がない」と文部科学省の幹部は指摘する。
小学校から「英語の授業」が導入されるのはいいのですが、この内容では、中途半端で本当に心配。「英語」に苦手意識を持つ子ども達が、さらに増えそうな予感がします。実際、同ニュースでは、「アンケート結果」にも言及しています。
では、「学ぶ」側の子供たちはどう受け止めているのだろうか。
「小学校での英語学習は?」
- とても楽しかった 25人
- 楽しかった 56人
- あまり楽しくなかった 50人
- 楽しくなかった 37人
この少々ショッキングなデータは、東京都内の区立中学校の女性教諭が行ったものだ。この区立中学校の学区では、文部科学省の研究指定校として小学1年生から英語教育を行っている小学校がある。教諭は昨年(2008)秋、こうした小学校で6年間英語教育を受けてきた中学1~3年生計168人を対象にアンケート調査を実施した。その結果、小学校で受けてきた英語の授業が「楽しくなかった」生徒は87人と半数を上回った。
その理由は、何とか子供たちに英語を楽しんでもらおうとしている教師にとってはがっかりしそうなものばかりだ。「何を言っているのか分からなかった」「ゲームばかりで、ろくに言葉を覚えられなかった」「遊びが多すぎる」「先生だけがハイテンションだった」「意味も分からずに英単語を発音していた」…。
さらに小学校での英語授業が役に立ったかという質問には、「役に立っていない」と感じている生徒が108人にものぼり、全体の6割を超えた。この教諭は「本当に小学校英語が有効なのか疑問がわく」と報告している。
同時に、「役に立った」という答えが多かったアンケート内容も紹介されているのですが・・・、普通に考えれば、「何を言っているのか分からなかった」「ゲームばかりで、ろくに言葉を覚えられなかった」「遊びが多すぎる」「先生だけがハイテンションだった」「意味も分からずに英単語を発音していた」という授業内容が通用するのは、低学年まででしょう。
本来、「英語になじむことでコミュニケーション能力を高めようという狙い」の授業内容であれば、2歳から低学年までの子ども達に導入すべき内容にもかかわらず、無理やり5・6年生から始めるから、反応が悪くなっているのでは? と思います。
お隣、韓国では、すでに小学校の授業に英語を導入しているのですが、その内容は全然違うようです。
琉球新報「韓国の小学校英語教育(2010.4.28)」(斎藤陽子)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-161419-storytopic-13.html
韓国政府は韓国全土の児童に1997年から小学3年からの英語教育を施し、韓国政府は相当力を入れて研究し作成したであろうと思われる、各年ごとの英語教科書と教科書に沿ったDVDを児童一人一人に配布していることだ。
かたや日本政府では昨年11月の「事業仕分け」で予算カットの対象となり、平然と小学校英語ノートの作成を廃止するという。韓国とは対照的な日本の英語教育の行く末を案じてしまう。
小学校の各クラスにはスマート・ボード(電子黒板)まで充実させていたのにも驚く。英語教師の養成には教師は平日の授業後や夏休みを利用し、1年間100時間の英語講習会を3年間受け、これを修了した英語教師は特別職の教師とみなし、特別昇給を与えるという方法を取っている。
その特別職の英語教師を養成指導するリーダー格の英語教師になるには、韓国政府の奨学金で米国など英語圏へ留学し、短期集中講義を受け、英語圏で英語教師免許のテストを受け免許を取る必要がある。1995年から、その規定を定めたというから、長期的視野に立った英語教育プロジェクトを韓国政府は総力を挙げて行っている。
小学校の英語授業で、日本と韓国と明らかに違うことは、日本では相変わらず「ネーティブスピーカー」にこだわりをみせているのに、韓国では、担当教師に対して「英語圏で英語教師免許のテストを受け免許を取る必要」を義務付け、教育資格にまで踏み込んでいる点です。
とりあえず英語を話せる「ネーティブスピーカー」に習わせているだけでは、いつまでたっても「英語教育」の質は上がらないでしょう。人材以外の資源がないのは、お隣の韓国も日本も同じ環境だと思うのですが・・・、このままでは、結果的に、日本人の国際競争力が、アジアのなかでも低下してしまいそうです。
さらに、前述のニュースでは、↓不安を抱えながら授業を担当する日本の先生方の姿が浮き彫りに。
旺文社が昨夏、公立小学校で英語教育を担当する教員に対して行ったアンケートでは、教員の52・5%が英語教育の導入に不安を感じているという実態が浮かんだ。年間35時間を行うための環境の整備状況についても、「進学先の中学校との情報交換」で79・8%の教員が、また「同一中学校に進学する近隣小学校との情報交換」では76・4%が整っていないと感じていた。
公務員という立場上、「英語」教師だけを特別扱いできないのもかもしれませんが、英語教育に限っていえば、このような国内事情だけで、適当に解決していていいはずがないと考えて込んでしまいます。
「教育制度改革」という呼び声はいいのですが・・・、今回のような子ども達にも先生方にもストレスになる中途半端な改革でなく、日本政府が「総力を挙げて」改革していかない限り、いつまでも、将来子ども達が「英語」圏で活躍できる素地を得にくい英語の授業内容にとどまってしまうでしょう。
ファーストリテイリング(ユニクロ)は、2012年3月から社内の公用語を英語にする方針と発表しています。また、楽天も2012年末までにグループの公用語を英語にすると正式に発表。すでに日産自動車、日本板硝子、SMK、という企業は、日本企業でありながら、社内の公用語が英語です。
おそらく、これからも社内公用語を「英語」にする日本企業は増え続けるでしょう、ただ、一方で国内志向の日本企業も存在し続けるでしょう。私たちの次の世代は、どちら志向の企業を選択したいと考えるのでしょうね。。。
いずれにしても、このままでは、教える側の先生も、教えてもらう側の子ども達にも、双方ともにストレスな「小学校の英語授業」という残念な内容になりそうです。
シンガポールからイブリン先生がきたら、イブリン先生にパネリストになってもらって、一度、小学校の先生をお招きして、CHES Friendsのお母さま方と一緒に、懇親会のような座談会でも企画してみましょうか。
彼女がシンガポールで勤めていたインターは、国際バカロレア(IBディプロマ・プログラム)を導入している学校でした。
国際バカロレア資格(こくさいバカロレアしかく 英: International Baccalaureate)とは、スイスの財団法人 国際バカロレア機構(Organisation du Baccalaureat International)の定める教育課程を修了すると得られる資格である。2010年時点で、全世界138カ国の2925校の学校で採用されている。
初等・中等・高等の教育課程それぞれについて一定の履修基準があり、課程修了時に修了試験を受ける。英語、フランス語、スペイン語を公式教授言語として定めている。教育言語だけでなく生徒の母語の履修が必修である点で、国家が実施する教育課程とは異なる。たとえばアメリカン・スクールでは日本語は日本語を第一言語とする生徒にとって必修科目ではないが、他にも母語に相当する言語がない場合、国際バカロレアでは原則として必修科目となる。
この際、「小学校学習指導要領解説(外国語活動編)」とか言わずに、「英語教育」の基準を根本的に見なおす時期かもしれないと感じてしまいます。
いずれ、CHESにも「国際バカロレア(IBプログラム)」が導入できればいいですね。
でも、今の段階では、まずは、しっかりとスタートすることからですねw。