早期教育は、消えるのか? それとも、貧困の連鎖を断つ鍵なのか?

非常に興味ある記事が掲載されていましたが、なんだか結論を急ぎ過ぎて、結論だけが独り歩きするのが怖い気もしましたので、ひと言ふれておこうと思います。

【早期教育効果は小学生で消える】

AERA4月19日(月) 11時31分配信 / 国内 – 社会

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100426-00000001-aera-soci

↑一部記事から抜粋させていただきます。

■所得よりも養育態度

お茶の水女子大学の内田伸子教授(発達心理学)は、文字の読み書きなどの早期教育に批判的だ。内田教授は昨年秋の東アジア学術交流会議で「幼児のリテラシー習得に及ぼす社会文化的要因の影響」調査を発表した。

ちょうどその2カ月ほど前、文部科学省は全国学力テストの結果を分析し、親の所得が高いほど子どもの学力が高いという調査を発表していた

親の年収が1200万円以上では国語、算数の正答率が全体の平均より8~10ポイント高く、200万円未満では逆に10ポイント以上低かった。

だが、内田教授の調査では、子どもの学力格差は親の所得格差ではなく、親子のかかわり方が大きく影響していた。たしかに「読み・書き」能力だけみれば、3歳では親の所得や教育投資額が多いほど高かった。

しかし、その差は子どもの年齢が上がるにつれて縮まり、小学校入学前に消滅した。文字などの早期教育の効果はわずか、数年しか続かないのだ。

すでに内田教授は20年以上前に実施した調査で、3、4歳で文字を習得している子と、習得していない子との差は、小学校入学後に急速に縮まり、1年生の9月には両者の差は消えてしまうということを指摘してきた。

また、別の研究でも、漢字の習得では、早期教育を受けなかった子どもとの差は小学校2年生ごろに消滅し、むしろ国語嫌いは早期教育を受けた子に多かったということもわかっている(黒田実郎、「保育研究」)。

この記事の根拠となる調査内容が書かれていないので、なんともコメントしようがないのが正直なところなのですが、子ども達の学習意欲や能力には、「早期教育」と「親子関係(親の養育態度)」と「親の所得」という3つの前提条件が複雑に絡んでいることは理解できます。

一般的に、「親の所得」水準が高いほど、お母さんに時間的余裕ができ、子ども達への目配りもできるので、「親子関係(養育態度)」もよくなり、また、経済的にも余裕がある分だけ、子ども達に「早期教育」と呼ばれる「習い事」に参加させる割合も増えてくることは簡単に想像できます。

しかし、この記事では、これら3つの条件のうち、なにが必要要件なのか、あるいは十分条件なのか等、それぞれの前提条件が十分に比較検討されていないように感じました。

たとえば、親の養育態度とは、一般的にイメージする「親」としての役割なのでしょうか、あるいは「教師」のような役割も含むのでしょうか。具体的にどのような「態度」のことをさしているのでしょう。

そして、その役割は、「家」の外の「教育者」では代替可能なのか、それとも親以外では、不可能なのでしょうか。

また、この記事では、いわゆる「早期教育」と、その「方法論」については触れられないまま、文字の読み書きという「結果」だけで、子ども達の「学習意欲」や「能力」を判定しているようにも感じます。

たしかに、この記事にもあるように、最近お聞きすると、毎日のようになんとなく「習い事」に通う子ども達も稀ではないようです。

たとえば、ある幼児教室では、繰り返し「日本語」や「英単語」のドリルを実践しています。この記事にある「読み書き」の早期教育の「方法論」とは、あるいは、このような単純作業の学習方法のことを指しているのかもしれません。

ドリルやフラッシュ・カードで繰り返し学ぶと、確かに子ども達はすぐに覚えます。本当にすぐに覚えてしまうのです。「覚える」という能力を訓練するのは、幼い時期、つまり「早期教育」が適していることに異論を挟む方はいないはずです。

しかし、子どもたちは「覚える」作業のあと、興味のある「なにか」に発展していかないと、このような単純作業にやがて飽きてしまいます。つまり「覚えた」から→「飽き」て、無気力になってしまうのです。

↓まさに、「早期教育効果は小学生で消える」記事が指摘する状況です。

先の榊原教授は、こうした塾や学習教室での先取り学習も逆の効果を生む危険性があると話す。

日本には飛び級制度はないし、習熟度別クラスも少ない。塾などで勉強したことを学校で「復習」する状態が常に続くと、学校での勉強がつまらなくなる

それでも、覚えたことが、次に興味のあることへ発展していくことをある種の成功体験として実感できれば、「覚える」から→「学習意欲」、また次に「覚える」から→「学習意欲」という理想的な学習態度や能力の好循環を体得できるようになります。子ども達の潜在能力を、そんなに簡単に侮らない方がいいと思うのです。

つまり、早期教育の是非について、このように早急に結論を出す前に、子ども達が「つまらなくならない」良い公的な教育環境を与えてあげることができているのかどうか、また、公的な教育環境に限界があるのであれば、早期教育のいくつかの「方法論」について、その内容を比較検討する必要があるように感じるのですが、いかがなのでしょう。

実際、かつて、このブログでもお話したのですが、「就学前への教育投資のほうが費用対効果は高い」という報告もあります。

就学前教育の投資効果から見た幼児教育の意義─就学前教育が貧困の連鎖を断つ鍵となる─大竹文雄[大阪大学社会経済研究所教授]

http://benesse.jp/berd/center/open/berd/backnumber/2008_16/fea_ootake_01.html

↑こちらの論文は、1960年代にアメリカで行われたペリー就学前計画の実験結果をもとに、ノーベル経済学賞の受賞者でもあるシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授(専門は労働経済学)の論文の解説です。この論文は、約40年間にわたって追跡調査が行われた子ども達の結果に基づき書かれてあります。

結論だけをみると、今回の記事とは真っ向から反対です。しかし、どちらの記事もよく読んでみると、子ども達の教育へ求めているものは、同じなのではないのかと思えてきます。

【早期教育効果は小学生で消える】から一部抜粋。

■想像力豊かな子は…

過熱する一方の早期教育に警鐘を鳴らしてきた内田教授は、こう話す。

「幼児期には五感を使って親子で体験を共有することが大切です。

親子のコミュニケーションや会話のやりとりを通じて、子ども自身が考えて判断し、親子の絆が深まっていく中で子どもの語彙力は豊かになる。

お金をかけなくても子どもは伸びるのです」

つまり、一見、正反対の内容の論文のように感じるのですが、「覚える」から→「学習意欲」、また次に「覚える」から→「学習意欲」という理想的な学習態度や能力の好循環を子ども達が体得できる環境に必要なことは、子ども達の「安心感」、そしてその「安心感」を維持するために、親や先生との「信頼関係」が必要であるということではないのでしょうか。

「親子の絆が深まっていく中で子どもの語彙力は豊かになる」→「お金をかけなくても子どもは伸びるのです」

結局、「早期教育効果は小学生で消える」記事のここの結論が、あまりにも早急なのだと感じます。

すでに書きましたが、一般的に、「親の所得」水準が高いほど、お母さんに時間的余裕ができ、子ども達への目配りもできます。「親子関係(養育態度)」もよくなり、また、経済的に余裕がある分だけ、子ども達に「早期教育」と呼ばれる「習い事」に参加させる割合も増えてくることは簡単に想像できます。

しかし現実は、経済的な事情や仕事の事情等から、生まれて間もない幼い我が子を教育機関でもない「保育園」に預けなければいけなかったり、また、自分達が与えられた以上の教育環境を望むからこそ、幼い頃から「習い事」に通わせる親心があるわけでしょう。

これらのご家庭にあるのは、もしかすると、自分達「親」をある種の「反面教師」と考えている可能性だってあります。それでも、確実に「親子の絆」は存在しますよね。

しかも、なとなく漠然としているものの、特に日本では、子ども達が大きくなるこれから20年後の環境は、自分たち親自身が経験してきたようには行かないのではないのか、まして、公的な教育内容を100%信用できない環境下、かなり大きな不安を抱えながらの育児や教育です。

このような環境のなかで、「早期教育」→「×」で、「親子の絆」→「子どもが豊かに」という早急な結論は、現実的には受け入れ難いような気がします。

つまり、この記事にある議論の方向は、逆なのではないのかと感じてしまうのです。「子どもが豊かに」なるためには、「どのような内容」の教育を「いつごろ」からはじめて、「どのように」進め、「どこ」で受けることができ、「なぜ」受ける必要があるのかを、子ども達と一緒に親も理解できる公的な教育環境が、まず、求められているのだと思います。

しかし、残念ながら現状では、その公的な教育環境になんとなく不安を感じてしまうからこそ、早期教育という選択を考えてしまう実態があるのでしょう。

つまり、経済環境や親の教育水準、親の能力に左右されることなく、すべての幼い子ども達が、どうすれば「学習意欲」や「能力」を向上させることができるのか、そして、それは、公的な教育環境として準備することができているのか、準備できていないのであれば、どのように改善すべきなのかを踏み込んで確認して欲しいと思うのです。

この点では、大竹文雄氏(大阪大学社会経済研究所教授)の「就学前教育の投資効果から見た幼児教育の意義─就学前教育が貧困の連鎖を断つ鍵となる」の方が、求められている教育環境のヒントとしてかなり説得力があるように感じます。

http://benesse.jp/berd/center/open/berd/backnumber/2008_16/fea_ootake_01.html

経済的に恵まれない3歳から4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象に、午前中は学校で教育を施し、午後は先生が家庭訪問をして指導にあたるというものでした。この就学前教育は、2年間ほど続けられました。

そして就学前教育の終了後、この実験の被験者となった子どもたちと、就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもたちとの間では、その後の経済状況や生活の質にどのような違いが起きるのかについて、約40年間にわたって追跡調査が行われました。

その結果は、有意な差となって表れました。

就学後の学力の伸びに、プラスに作用しただけではありません。介入実験を受けた子どもたちと、そうでない子どもたちを40歳になった時点で比較したところ、高校卒業率や持ち家率、平均所得が高く、また婚外子を持つ比率や生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出たのです

そもそも、子ども達の公的な教育環境があいまいなまま、むやみに「親」に「教育」を押し付けてしまうから、この「早期教育効果は小学生で消える」記事にあるように、結果として「親」が「子ども達」に「早期教育」を押し付けてしまう環境ができていくのでしょう。

「早期教育効果は小学生で消える」から抜粋。

■鈍る昼間の活動

早期教育を受けている幼児は、受けていない幼児に比べてストレスが高かった。さらに早期教育を受けている幼児は、昼間の幼稚園での活動が鈍くなっていた。

ほかにも早期教育を受けた子どもがストレスで情緒障害を引き起こしたケースや、親子の愛着関係に悪影響を及ぼした事例も報告されている。

↑こうして結論だけを急ぎ、一生懸命な親心の失敗例をむやみに提示するまえに、ヘックマン教授の「恵まれない境遇にいる子どもたちへの教育投資は、公平性と効率性を同時に促進する稀な公共政策である」という言葉を、公的教育関係者の方々が真摯な気持ちで確認して欲しいと思うのです。

すでに、日本でも「福祉」の領域である「保育園」での実践例が、「ヨコミネ式」として、横峯園長によって紹介されています。

私は、方法論的に全面賛成という訳ではありませんが、子ども達の成長過程の貴重な時間を大切するとても良い試みだと思います。

いずれにしても、子ども達を守ることができるのは、親だけなんだろうなぁということは、よく理解しているつもりなのですが、子ども達の教育について、公的な教育環境を100%信頼できないまま、すべての責任を親だけが負わなければいけないような教育環境では、格差の世襲は起こりやすく、いつまでも課題が残るような気がします。

ところで、小田真嘉さんが、とてもいい言葉を配信されていました。

子供は愛を受けて成長していく

大人は愛を与えて進化していく

分かってはいるのですが、

せめて、もう少し、より効率的な方法論が知りたいのも

やっぱり親心というものでしょう。


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